事業用賃貸物件と居住用賃貸物件はどう違う
二つの大きな違い
事業用と居住用では、まず物件そのものの使い方が違います。また、借りるときにかかる費用も違ってきます。
【使用目的の違い】
事業用賃貸物件を探していると、「テナント」という語句を見かけます。本来テナント(tenant)とは、主に借家(地)人という意味の言葉ですが、日本では一般的に「店舗や事務所を賃借して使用する人」という意味合いで使われています。
事業用物件を借りるときは、「テナントが商売をするために利用する」という目的があります。つまり、物件を利用するのはテナントのほか、その先にいる多数のお客様や従業員ということになります。借主自身が暮らすためにある居住用物件との最大の違いは、この点でしょう。
事業用物件は多くの人が利用するため傷みが早いので、居住用物件に比べて高めの賃料設定になっています。
【初期費用の違い】
賃貸物件を借りるときには初期費用がかかります。事業用物件は、居住用に比べてこの初期費用がかなり高額になります。まず、そもそも賃料が高いということが第一の理由で、賃料が高ければ、「賃料の○カ月分」として算定される一連の初期費用にすべて掛かってくるからです。前家賃、保証金(敷金)、礼金、仲介手数料がそれに当たります。
また、事業用物件では、保証金(敷金)の額は居住用と比べるとかなり高く設定されます。もしも事業が低迷すると、賃料の滞納が起きる可能性が高くなります。居住用よりもそのリスクは高いということで、保証金の設定は、賃料の3カ月分から6カ月分以上にもなります。ですから、事業用物件を賃借するときの初期費用は、一般的な居住用物件の何倍にもなると思われます。
居住用物件の事業用への転用はNG
飲食店に限らず、明らかに不特定多数の人が出入りする店舗や事務所を営むなら、事業用の物件を借りることになります。ただ、「倉庫として借りる」「お客の出入りはない」「パソコン1台を使うだけ」など、個人使用の事務所として賃貸物件を探すときに、「居住用物件を事務所にできないか?」というアイデアが浮かぶかもしれません。しかし、「居住用」という名目で借りた物件を事業用に転用することはNGです。もちろん客が出入りする商売をすることもできません。
そもそも一戸建て以外の居住用賃貸物件の場合、同じ建物に住む他の住民たちは普通に生活している状態です。その中の一戸だけに見知らぬ人が往来するのは、他の住民にとっては気持ちの良いものでなく、防犯面での不安を生じさせてしまいます。こっそりと事業用に使っていることが露見した場合、契約違反として違約金の支払いや契約解除を求められることもあります。基本的には目的に合った物件を借りて、定められた用途通りに使用すれば問題ありません。
ただ、お客様の出入りがほぼないような状態で個人的な事務所と自宅を兼用にしたいとき、その旨を契約前に伝えることで了承を得られるケースはあるかもしれません。しかしその場合は、物件探しの段階で不動産会社に伝えておき、必ず貸主の承諾を得ることが必要です。賃貸借契約書にも、その旨を必ず明示してもらいましょう。
退去時の原状回復について
事業用賃貸物件も居住用賃貸物件も、退去時には「原状回復義務」があることは共通しています。そして、民法では賃借人の原状回復義務について、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く」と規定しており、その適用についても双方同じです。
「通常の使用による損耗」とは、例えば家具を置いた箇所の畳のへこみなどです。また「経年劣化」とは、例えば日光による壁の変色などで、これらは退去時に借主が原状回復の義務を負わないということが明示されているのです。
では、どのような場合に借主が原状回復義務を負うのかというと、例えば重くて硬い物をうっかり落として床をへこませた、家具を移動する際に壁や柱にぶつけて傷つけたなどです。このように借主に責任がある損傷については、当然借主に原状回復義務があるということです。
以前は賃貸物件の退去時の原状回復義務については、貸主・借主の責任範囲の解釈が分かれるため、敷金(保証金)返還をめぐるトラブルになる可能性が高かったのですが、民法の規定として条文明示された以降(令和2年4月)は、線引きが明確化されてトラブルが減少することが期待されています。
ただし事業用賃貸物件では、賃借した後は多くの顧客が出入りしますし、日常的に荷物の搬入などもありますから、人が生活するだけの居住用物件に比べて損耗の度合いや損傷の可能性が高いという見方ができます。ですから、事業用物件の賃貸借契約では、貸主側は「特約」として借主が原状回復を負担する範囲を契約書に明記しておくことが、慣例として多いようです。
特約を把握しておかないと、退去時に初めて負担を知ったということになってしまうので、必ず重要事項説明時、契約締結時に確認しておくことが大切です。また、退去時に借主の責めに帰す損傷か否かがわかるように、入居時に物件の写真を撮ってメモ書きとともに残しておくことは有効です。造作譲渡するのか、内装を解体撤去するのか、どちらにしても「原状」を記録して、できれば貸主と共有しておくことをおすすめします。
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